第四部:無機化学の基礎 無機分析化学(機器分析)

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  ここでは,元素分析目的で実施される機器分析の蛍光X線分析に関連し, 【蛍光X線分析とは】, 【外部のエネルギー源について】, 【X線の検出】, 【元素の定性,定量分析】 に項目を分けて紹介する。

  蛍光X線分析とは

 元素の定性・定量分析が可能な多数の機器分析法がある。表面分析を除き,元素の直接的な定量分析が可能な JIS 規格の一つとして JIS K 0119 「蛍光 X 線分析方法通則: General rules for X-ray fluorescence analysis 」がある。
 その他には,JIS K 0121 「原子吸光分析通則」,JIS K 0116 「発光分光分析通則」,JIS K 0133 「高周波プラズマ質量分析通則」,JIS K 0127 「イオンクロマトグラフィー通則」などがある。

 蛍光X線分析法( X- ray fluorescent analysis ; XRF )
 JIS K 0211 「分析化学用語(基礎部門): Technical terms for analytical chemistry (General part) 」では,
 “蛍光X線を測定し,物質の定性・定量を行う方法。エネルギー分散方式,波長分散方式などがある。”
と定義され,主に固体試料の分析に適用される。

 物体からのX線放射原理は,【蛍光X線,特性X線】で紹介したように,外部から与えられた高いエネルギーで内殻電子がはじき出され,励起状態になった原子の外殻の軌道電子が電子状態遷移の選択律(許容遷移に従い遷移する。
 遷移できる電子のエネルギー状態変化(元素固有)に応じた特性X線を放出する。外部のエネルギー源としてX線を用いた場合に,放出される特性X線を蛍光X線という。
 なお,元素に対応する蛍光X線のエネルギー(波長)については,【蛍光X線,特性X線】で紹介する主要な元素の特性X線が参考になる。

蛍光X線の発生原理と特性X線の種類

蛍光X線の発生原理と特性X線の種類

 【関連用語】
 全反射現象( total reflection )
 平滑な表面にX線を入射したとき,視射角が一定の値(臨界角)以下になると,入射したX線がほとんどすべて反射する現象。この現象を利用して表面分析する方法を全反射方式( total reflection method )という。
 エネルギー分解能( energy resolution )
 単色X線に対するエネルギー識別能力。得られたピークの半値幅( full width at half maximum ; FWHM )(単位の次元はエネルギー)又は半値幅のピークエネルギーに対する比(%)で表す。
 数え落とし( counting loss )
 高計数率でX線を測定する場合,不感時間(検出器が一つの光子を検出した後,次の光子を認識できるようになるまでの時間)中に次のX線光子が入射するため,入射X線強度と測定された計数との比例関係が崩れる現象。
 バックグラウンド( background )
 検出器で検出される信号のうち,試料から発生する分析線以外の成分。
 エスケープピーク( escape peak )
 入射X線のエネルギーより検出器に固有なエネルギー分だけ低く現れるピーク。例えば,シリコン半導体検出器では 1.74keV,アルゴン比例計数管では 2.96keV 低エネルギー側に現れる。
 サムピーク( sum peak )
 単一光子エネルギーの整数倍のエネルギー位置に現れるピーク。2 個以上の光子が極めて短時間に検出器に入射するとき,パルス波高が各光子のエネルギーの和となって観察される。
 統計変動( statistical error of counting )
 放射線計数における計数値の変動。この変動は,ポアソン分布に従い,計数値の平方根で表す。

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  外部のエネルギー源について

 特性X線の放出には,内殻電子をはじき出すほどのエネルギーを外部から与えなければならない。
 分析方法(装置)は,外部からのエネルギーの与え方の違いで,加速した粒子(電子,イオンなど)を用いる方法,電磁波(X線やγ線など)を用いる方法に大別される。

 加速粒子による励起
 粒子を照射し,内殻電子をはじき出す方法は,物体内部への粒子の侵入深さに限界があるため,EPMA (電子線マイクロアナラシス)などの表面分析の分野で利用される。

 電磁波(X線)による励起
 電磁波を照射する方法は,物質深部まで影響を与えられるので,物質の元素分析方法として用いることができる。高エネルギーのX線を照射し放出した特性X線は蛍光X線と呼ばれ,これを検出する分析方法は蛍光X線分析( XRF :X- ray fluorescent analysis )といわれる。
 蛍光X線の検出は,元素分析の他に,物体の厚み測定や物体内部の元素分布観察などにも用いられる。化学分析に用いられる方法については,JIS K 0119 「蛍光X線分析方法通則」に規定されている。

 励起用のX線源について
 蛍光X線を発生させるために試料に照射するX線を一次X線( primary X-rays )といい,一次X線源には,X線管,ラジオアイソトープ線源や電子シンクロトロン放射光(日本ではスプリング 8 など)などが利用される。一般的にはX線管が用いられる。
 一次X線には,多くの元素の内殻電子をはじき出せるように,X線のエネルギー範囲が広く,高出力の連続X線が必要である。このため,X線管は,タングステン( W )や銅( Cu )などのターゲット金属に,高真空下で電子銃を用い加速した電子を照射する構造が一般的である。
 X線管には,ターゲットが固定(封入管方式)のもの,高出力を得るためターゲットを回転(回転対陰極方式)し冷却するタイプなどがある。

 連続X線は,軌道電子の遷移で発生する特性X線とは異なり,電子シンクロトロン放射光と同様の原理で,電子銃から放出された電子の軌道がまげられる時の制動で放射されるX線である。このX線は,波長分布が連続しているため連続X線や白色X線などと呼ばれる。
 電子の軌道をまげる力は,電子シンクロトロンでは外部磁場であるが,X線管の場合は,ターゲットを構成するタングステンなどの原子核のクーロン場である。

連続X線の加速電圧(管電圧)と波長分布

連続X線の加速電圧(管電圧)と波長分布
図出典:旧;日立メディコ X線入門
 新;日立 ヘルスケア X線入門:X線のエネルギースペクトル(2021年3月サイトリニューアルで削除) 

 

封入管方式のX管の構造例

封入管方式のX管の構造例
図出典:(般財)高度情報科学技術研究機構 X管の構造

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  X線の検出

 特定のエネルギーを持つX線の検出には,一般的に波長分散型X線分光法 WDX )とエネルギー分散型X線分光法 EDX )とが用いられる。

 波長分散型X線分光法( Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer )
 試料から発生するX線を分光結晶,人工多層膜( 2種以上の材料の薄膜を累積した素子),回折格子などの波長分散分光素子を用いて分光する方式であり,検出器には,比例計数管,シンチレーション計数器などが用いられる。

 エネルギー分散型X線分光法( Energy Dispersive X-ray Spectroscopy )
 X線エネルギーに比例した電気信号を発生する検出器(多チャンネル波高分析器)を使用して,分光(エネルギー選別)する方式であり,検出器には,エネルギー分解能の高い半導体検出器が用いられる。
 半導体検出器は,X線による電離現象を利用した検出器であり,多元素の同時分析が可能である。なお,半導体検出器を使用する場合は,必要に応じて液化窒素,ペルチェ素子,冷凍機などを用いた冷却が必要となるある。

 X線検出の限界について
 何れの検出方法も,原理的には原子番号 4 のベリリウム( Be )の Kα線( 0.110keV ,11.4nm )より高いエネルギーのX線は検出できるが,エネルギーの低い,水素( H ),ヘリウム( He ),リチウム( Li )の検出が困難である。

 定量分析を考慮した実用上では,EDX で原子番号 11 のナトリウム( Na )の Kα線( 1.041keV ,1.19nm ),WDX で原子番号 5 のホウ素( B )の Kα線( 0.183keV ,6.76nm )より高いエネルギーの蛍光X線を出す元素に適用されるのが一般的である。
 なお,現行の検出装置で検出できないリチウム( Li )の Kα線は,エネルギー 0.054keV ,波長 22.8nm と遠紫外にも分類される軟X線である。

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  元素の定性,定量分析

 通常の化学分析に用いる蛍光X線分析装置では,X線発生源の加速電圧として 50kV程度が用いられるので,実用的に定性・定量できる特性X線のエネルギーは 30KeV程度までである。

 定性分析
 蛍光X線ピーク位置の回折角( 2θ )又はエネルギーで判定する。
 K系列X線で定性分析を行う場合には,Kα線を検索し,Kα線と Kβ線との強度比を考慮して判定する。
 L系列X線で定性分析を行う場合には,Lα1線,Lβ1線,Lβ2線,Lγ1線などのスペクトルとその強度比とを考慮して判定する。
 軽元素の定性分析では,重元素の L 系列及び M 系列X線の存在に留意する。さらに,コンプトン散乱線,レイリー散乱線,回折線及びX線管からの不純X線の存在,短波長X線,高次線,エスケープピーク及びサムピークの存在に留意する。

 定量分析
 濃度又は量が既知の試料(標準物質など)から得られた蛍光X線強度と測定試料から得られた蛍光X線強度とを比較する相対分析となる。
 定量方法には,【検量線を用いた定量】で紹介した検量線法,内標準法,標準添加法の他に,検量線を作成しないファンダメンタルパラメータ法( FP法)がある。
 ファンダメンタルパラメータ法とは,一次X線のスペクトル分布,装置の幾何学的配置,物質のX線吸収係数などの定数を用いた理論X線強度と,測定して得られたX線強度とを対比して逐次近似法によって測定試料の組成を求める方法である。

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