腐食概論鋼の腐食

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 淡水環境の腐食

 水質の影響

 淡水の中で河川水や地下水は,地上に降り注いだを源とする。雨雲の中で発生し,地表に落下する間に雨滴の中に大気の浮遊物やガス成分を取り込む。
 このため,大気の成分である窒素,酸素,二酸化炭素(炭酸ガス),大気中を浮遊する海塩粒子,各種燃焼ガス成分などが,雨滴に溶け込む。
 
 二酸化炭素(CO2が,水に溶解すると,
     CO2+H2O ⇔ H2CO3 (炭酸)H++HCO3- (炭酸水素イオン)
     HCO3-H++CO32- (炭酸イオン)[高いpHでは反応量極僅か]
となり,水の水素イオン濃度指数(potential hydrogen,power of hydrogen) pH が低下する。
 このため,標準的な大気で飽和した純水は,大気に含まれる二酸化炭素により,pH 5.6まで低下する。日本では,大気飽和で得られる pH 5.6より低い pHの雨を酸性雨(acid rain)と称している。
 なお,米国では,他の成分も考慮し,pH 5.0以下を酸性雨と規定している。
 
 降雨に含まれる炭酸水素イオン以外の主な陰イオン(anion , negative ion)には,海塩粒子(sea-salt particle)由来の塩化物イオン(Cl-海塩粒子や燃焼ガスなどを由来とする硫酸イオン(SO42-)や硝酸イオン(NO3-などがある。
 近年は,地球規模の大気汚染(aerial environment pollution)の進行に伴い,酸性雨の水素イオン濃度指数の低下や出現場所・頻度の拡大が懸念されている。
 実用の淡水は,雨水が地表,及び地下を経由したものである。このため,経由地の土壌成分の影響を受ける。この結果として,【淡水とは】で述べた河川や湖沼の水質に至る。
 上水に関しては,水処理の段階で,凝集剤として硫酸アルミニウムを用いた場合に,河川水などに比較して高い硫酸イオン濃度となる。
 鋼腐食に影響する水質項目として,水素イオン濃度指数(pH),塩化物イオンなどの陰イオン,陰イオンと対になる陽イオンや固形分,及び温度に分け,それぞれについて別項にて解説する。

 【参考資料】
 1):W. Whitman, R. Russell, V. Altieri, Ind. Eng. Chem., 16,665 (1924)
 【参考】
 酸性雨(acid rain)
 化石燃料の燃焼などで発生・排出された硫黄酸化物や窒素酸化物などの汚染物質を取り込んで水素イオン濃度指数(pH) 5.6以下の強い酸性の雨。
 なお,汚染されていない大気の雨は,二酸化炭素(CO2)を吸収し,pH 6.5~5.5程度を示すため,これより酸性度の強い雨を酸性雨と称する。
 二酸化炭素(carbon dioxide)
 シーオーツーとも呼ばれる化学式 CO2 で表される無機化合物。化学式から「シーオーツー」と呼ばれる。
 有機化合物(石油,石炭などの炭素を含む物質)の燃焼,動植物の呼吸,微生物の活動,火山活動などで発生する。
 大気汚染(aerial environment pollution , atmospheric [air] pollution)
 大気環境汚染ともいい,大気中において,人の健康や環境に悪影響を及ぼす微粒子や気体成分の増加。
 化学が大きくかかわる“大気・海洋・水・土壌環境の保全”で問題とされる具体的な課題を分類すると次の通りである。
 汚染物質発生源付近での大気汚染,水質汚染,土壌汚染など公害として扱われる局地的な課題。
 酸性雨,粒子状物質( PM )や光化学オキシダントなどの大気環境汚染,広域の海洋生物に影響する海洋汚染などの県境,国境を越えた比較的広い地域の課題。
 オゾン層破壊,地球温暖化などの地球規模の課題。
 水素イオン(hydrogen ion)
 酸塩基反応式などでは,イオン式で( H+ )と表記するが,水素原子(陽子 1 個,電子 1 個)から電子を放出した陽子 1 個(ヒドロン)は,反応性が著しく高く安定して存在できない。
 通常は,溶媒と反応(配位結合)した多原子イオン(水の場合はヒドロニウムイオン: H3O+ )として存在する。 溶媒中での化学反応式で扱う場合は,簡単のために溶媒の水分子を省略し,H+ と表記する場合が多い。
 水素イオン濃度指数(potential hydrogen ,power of hydrogen)
 水素イオン濃度を表す指数。水素イオン指数(hydrogen ion exponen)ともいわれ,pH(ピーエッチ,ピーエイチ)と表記される。
 水素イオン活量(hydrogen ion activity)の逆数の常用対数。 注記 これは概念上の定義で実測できない値である。実用の操作的定義については JIS Z 8802 を参照。【JIS K 0211 分析化学用語(基礎部門)】
 この規格に規定した pH 標準液の pH 値を基準とし,ガラス電極 pH 計によって測定される起電力から求められる値。注記 ピーエッチ又はピーエイチと読む。【JIS Z 8802「pH 測定方法」】
 海塩粒子(sea-salt particle)
 海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子。海塩粒子の大きさは,約 0.01μm~20μm である。【JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」】
 イオン(ion)
 原子,又は分子が 1 個,又は数個の電子を授受することで電荷を持つ物質を指す。
 最外殻の軌道電子を放出することで,単原子,又は原子団(複数の原子が結合)は正の電荷を持つ陽イオンになる。
 最外殻の電子軌道に電子を受け取ることで,単原子,又は原子団は負の電荷を持つ陰イオンになる。
 歴史的には,ファラディーが電気分解の実験で,陽極(アノード:anode )に向かう粒子と陰極(カソード:cathode )に向かう粒子を発見し,これらの粒子をイオン(ion)と名付け,陽極に向かう粒子を陰イオン(anion :アニオン),陰極に向かう粒子を陽イオン(cation :カチオン) と呼んだのが始まりである。
 陰イオン(anion , negative ion)
 アニオン(anion)ともいい,負の電荷を帯びたイオンをいう。イオン(ion)とは,原子や原子団(分子)が電子を得たり失うことで電荷を帯びた状態をいう。
 陽イオン(cation , positive ion)
 カチオン(cation)ともいい,正の電荷を帯びたイオンをいう。イオン(ion)とは,原子や原子団(分子)が電子を得たり失うことで電荷を帯びた状態をいう。

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